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インサニティ.b 北千住まで。
 三郷の辺りは掘り起こされたり草の生い茂ったままの荒地がいくつも臨まれた。そのくせ大きな真新しいオフィスビルが建っているのだった。さほど混雑もしていない電車の、窓を正面に迎え入れる位置に立った。いくつかの新品のマンションが寒々しかった。荒々しい電線たちの向こうでは美しくも無い空が朝の陽を湛えていた。充満し堪えきれぬ風に。ただそれを遠くから眺めていた。気が楽だった。手も足も出ない。悲劇や喜劇。車体が揺れ乗客たちはのけぞる。窓の外を見てい続けることは至福だった。退屈など感じようはずも無いのだった。人と話すのがあまり好きでは無いので気も安らぐのだった。いくらでも見ていられる。同じ風景であろうとも。間違いなく僕を連れて行ってくれるから。風景たちには何一つの音も無く、自分はと言えば音の漠然の渦中に在り、ただ通り過ぎていく恍惚そのものであった。この数年、意味などを求めることには無意味しか見出せないでいる。僕の見る景色は僕そのものを映し出していた。電車は八潮を抜け地下に入った。
 おかしなことが起きている。まるで自分は他所にいるようだ。いつからか誰かの生の脇に潜んでいるようになっていた。地下トンネルのガラスには、ぼんやりとした風貌が反射していた。言葉を持たぬ者の、そのぼんやりとした顔が映っていた。いつも、一体誰のことを言っているのか分からずにいる。僕よりも頭一つ背の高い坊主頭の高校生たちが一体ずつ、彼ら自身も気付かぬ内にきれいなシンメトリーで両脇に立っていた。吊革を握る腕の振り上げ方も左右対称だった。寺社の門を守る像たちの風に見え微笑ましいのだった。電車は洞穴の中で更にスピードを上げ、いくつかの駅を通過した。老人と子供を駆逐するスピードだった。僕は僕の生にあるとは確信できないのだった。耳の音にただ在る静かな音符たちが、曖昧そのものである僕を不安の底へと引き擦り込むのだった。
 北千住の手前より電車は徐々に減速し、左右に車体を揺らしながら再び地上に至った。窓枠とビルとの隙間から、辛うじて東京の空を望む事は出来たが、どこまでも濁り切った扁平な色合いでしかなかった。北千住で慌しい乗換えをしなければならない。相変わらず外の音たちから閉ざされたままで、僕の動作は緩慢だった。あの薄汚れた空を越えた向こうに、果たして先があるのかも疑わしいのだった。吊革に掴まったままの癖に、なぜだか僕は少しまどろんでいた。電車が更に減速した。車体が揺れ、人々はのけぞる。僕だけの甘やかな時間がもうすぐ終わるのだった。
| 09:35 | 06:30 | comments(9) | - |